記事に登場するキャラクター
Bさん
これから社会人になる男子学生。社会の変化で、初任給や手取り金額がどう変わるのか気になっている。
神奈川トヨタ自動車 リクルート室 室員
神奈川トヨタ自動車の採用担当。 トヨタモビリティ神奈川で営業職を経験したのち、採用担当へ。 現場経験を活かし、より”リアルなノウハウ”で就活生をサポートします。
Bさんは就職先の企業を選ぶときに何を基準にしていますか?
やっぱりお給料ですね!【初任給】が高いところを基準に選んでいます。
初任給は、大学を卒業してから初めて貰えるお給料のことですが、その内訳については理解していますか?
本当のことを言うと中身はよく分かってません…。
全額貰える訳ではないというのは聞いたことがあります。
実際には、社会保険料や税金など、多くの項目が控除されて(差し引かれて)います。
そのため、手取り金額と初任給には差があるのです。
そうなんですね!実際貰える手取り金額の計算方法について教えて欲しいです!
もちろんです。お給料は仕事のモチベーションに大きく関わる重要なことなので、是非参考にしてくださいね。
大卒の初任給はいくら?
4年制大学卒の初任給ですが、 厚生労働省の「賃金構造基本統計調査結果」の新規学卒者の学歴別にみた賃金によると、2022年の大卒初任給の平均は「22万8,500円」です。
22万8,500円……どこの企業でも、そんなに貰えるものなんでしょうか?
いえ、初任給は学歴や産業、企業ごとに異なるので、どの企業に就職しても一律に上記の金額が貰えるわけではありません。
なるほど……少なくなるところもあるってことですね。
手取り金額だと、もっと少なくなるってことでしょうか?
そういうこともあるかもしれません。
ここではまず、初任給と手取り額の違いや、その他初任給に関連する項目について、詳しく解説していきます。
初任給と手取り金額の違い
初任給と手取り金額の違いは、控除が関係しています。
主な控除には、以下のようなものがあります。
- 住民税
- 社会保険料
- 所得税
住民税は、就職してから2年目の6月以降に徴収される税金です。
初任給から住民税が引かれない理由は、住民税は前年度の所得に応じて課税されるためです。
そのため、前年度学生だった新卒の社会人は、1年間働かないと住民税が引かれないということになります。
社会保険料は厚生年金保険や健康保険などのことです。会社にもよりますが、多くの場合は翌月から始まるため初月の初任給からは引かれません。
所得税は、その月の収入に対しての課税なので、初任給からも差し引かれます。
そのため、初任給から上記の控除額を差し引いた金額が、手取り金額になります。
初任給と年収の関係
初任給は1ヵ月分の給料のことを指しますが、年収は1年分の給料のことです。
一般的に、初任給は求人票に金額が記載されており、就職活動をしている学生の中には、初任給の金額を見て応募する企業を選んでいる方もいるでしょう。
しかし、実際には部署によって初任給が異なっていたり、人事評価によって2年目以降の年収が見直されたりする場合もありますので注意が必要です。
初任給の金額だけで企業に応募するかどうかを判断せず、賞与を含めた年収や人事評価制度もチェックすると良いでしょう。
学歴と初任給の関係
初任給の平均金額は、最終学歴によって異なります。
WEB労政時報による「2022年度 新入社員の初任給調査」では、全産業の学歴別の平均初任給は以下のような結果になりました。
- 高校卒(事務・技術)一律「17万5,234円」
- 短大卒(事務)「18万7,044円」
- 大学卒(事務・技術)一律「21万6,637円」
- 大学院卒修士「23万4,239円」
あくまでも平均値ですが、大学院卒修士、大学卒、短大卒、高校卒の順に、初任給が高くなる傾向にあります。
上記の統計結果を参考に、就職を検討している企業の給料が正当な金額であるかどうかを確認してみてください。
産業(業種)ごとの初任給
初任給は、産業(業種)ごとでも相場が異なります。
厚生労働省の「学卒者の初任賃金」では、不動産業・物品賃貸業が「22万0,000円」、生活関連・サービス業・娯楽業が「20万0,000円」と同じ学歴でも初任給に開きがあります。
専門的なものは初任給が高くなる傾向があります。
一般的な産業では業界によって初任給・年収が異なるため、産業別の初任給を把握して、志望する業界を選ぶのもおすすめです。
企業規模ごとの初任給
初任給は、企業の規模によって相場が異なります。
全国に営業所や拠点を構える企業と、地元に根付いた中小企業では、資本力や企業規模が異なるため、同じ産業だったとしても、大企業の方が初任給は高くなりやすいでしょう。
しかし、中小企業のなかには、従業員を大切にしたい、利益を従業員に還元したいという理由から、初任給を高めに設定している企業もあります。
企業規模は、従業員の数や売上高などを参考にすると良いでしょう。
応募する企業を選ぶ際は、企業の規模を調べておくことも大切
です。
初任給の給与額の内訳
初任給は、大きく分けて「基本給」「インセンティブ」「諸手当」から構成されています。
諸手当に該当するのは、以下のような項目です。
- 時間外手当
- 深夜・休日勤務手当
- 役職手当
- 住宅手当
- 通勤手当
- 家族手当
- 資格手当
上記を含む初任給の内訳について、解説します。
基本給
基本給とは、給与を計算する際のベースとなる金額で、必ず貰える固定給のことです。
基本給は、毎月の給料を計算する基準となるだけでなく、賞与を決める際にも使われます。
賞与は、基本給の2ヵ月分など、基本給をベースに計算される場合が多いです。
そのため、毎月の手取り金額が同じでも、基本給が高い企業やボーナスが多く支給される企業では年収が高くなる可能性があります。
基本給は求人情報に必ず記載されている項目なので、応募する際に確認してみましょう。
インセンティブ(成果給)
企業や職種によっては、基本給に加えてインセンティブ(成果給)を支給している企業もあります。
インセンティブは歩合に近い考え方で、営業職など毎月の成果に変動のある職種に採用されるケースが多いです。
インセンティブは成果を出した際には多く給与が貰えますが、その反面、成果によっては支払われません。
諸手当
諸手当とは、労働の報酬として支払われる基本給以外の報酬のことです。
どういう諸手当を採用しているかは、企業によって大きく異なります。
今回は、諸手当として代表的な報酬を紹介するので、求人情報を見比べる際の参考にしてみてください。
時間外手当
時間外手当とは、法定労働時間である1日に8時間を超えて働いたときに支給される報酬です。
残業をしたときに発生するので、残業代と呼ばれており、こちらの名称の方が一般的です。
残業をした際は、企業は必ず時間外手当を支給する義務がありますが、企業によっては時間外手当を固定残業代として、初任給に含んでいる企業や、みなし残業として固定額にて設定している企業もあります。
みなし残業とは、一定の残業時間を予め固定額で支払うことを指し、残業をしてもしなくても支払われます。
毎日残業をせずに帰ればメリットになりますが、一方でいくら時間外労働をしてもそれ以上の時間外手当は支給されない可能性がありますので注意が必要です。
このように、一見、初任給が高く感じられる場合でも、残業代を含んでいる場合があるということを認識しておきましょう。
時間外手当の有無は、初任給にも大きく関わるので、必ず確認してください。
深夜・休日勤務手当
深夜勤務手当とは、22時から翌朝5時までの深夜時間帯の労働をした際に支給される報酬です。
深夜時間帯に時間外労働をさせた際は、基本となる賃金から25%を上乗せした金額を支払うことが、法律で義務付けられています。
また、休日出勤の場合には基本となる賃金から35%を上乗せした金額を支払わないといけません。
終業時間がシフト制で決められている企業や、夜勤などが発生する企業に勤める場合は確認しておきましょう。
役職手当
役職手当とは、職位や業務上与えられた役割に応じて支払われる報酬です。
初任給とは関係ありませんが、将来的に役職を任された際に支払われます。
長期的に勤務したい企業では重要な報酬になるので、入社前に規定を確認しておくことが大切です。
住宅手当
住宅手当とは、賃貸住宅の家賃や住宅ローンの返済に充てるために企業から支給される手当です。
住宅手当は、企業が従業員へ提供する福利厚生の一部として提供されるケースが多いです。
通勤手当
通勤手当とは、従業員の通勤にかかる費用を手当として企業が支給するものです。
こちらも企業が従業員へ提供する福利厚生の一部なので、なかには通勤手当がない企業や支給上限額が設定されている企業もあります。
通勤経路は企業が指定する経路を利用しなければならない場合もあります。
家族手当
家族手当とは、家族を扶養している従業員へ支払われる生活費の補助です。
配偶者や子どもが主な対象で、扶養手当と呼ばれることもあります。
家族手当は、第一子がいくら、第二子がいくらと規定されている場合があり、家族構成に応じて支給されます。
資格手当
資格手当とは、業務に必要な資格を所有している従業員へ支払われる報酬です。
国家資格などの資格はもちろん、業種に関する専門的な資格や、企業によって独自に定められた資格もあります。
企業が自己啓発などの目的で独自に設定している福利厚生の一部でもあります。
初任給と手取り金額の計算方法
初任給は、額面すべてを貰えるわけでなく、社会保険料や税金などが差し引かれた金額が手取りとして支給されます。
しかし、これから社会に出る学生にとっては、社会保険料や税金がいくらかかるのかの想像がつかないと思います。
確かに!そもそも税金の種類がわからないので、いくらか計算できませんでした……。
大丈夫です。そこで、ここでは手取り金額の計算方法について、詳しく解説していきます。
手取りから差し引かれる控除額の計算
社会保険料や税金は、毎月の基本給から差し引かれる形で従業員が負担する仕組みになっています。
そのため、手取り金額を計算するためには、額面から控除される社会保険料や税金の内訳を計算しなくてはいけません。
従業員が差し引かれる代表的な控除内容を紹介していきます。
健康保険料
健康保険は、企業に勤めている人とその扶養家族が加入する医療保険制度です。
雇用者である企業と被雇用者である従業員が健康保険料を折半して負担します。
2023年度4月納付分からの健康保険料率は「10%」です。
東京都在住で、報酬月額が「195,000円~210,000円」の社会人の場合、毎月「20,000円」差し引かれる計算です。
介護保険料
介護保険料は、介護保険制度の財源とされている保険料です。
40歳から64歳以下の人が加入する保険制度のことで、2023年度4月納付分では、税率は「1.82%」になっています。
新卒の社会人は初任給から介護保険料を引かれることはありません。
厚生年金保険
厚生年金保険は、全ての会社員が加入する公的年金制度です。
健康保険と同様に、企業と従業員が折半して負担します。
一定期間加入することで、原則として65歳から年金を受け取れます。
厚生年金保険料率は「18.3%」です。
同じく東京都在住で、報酬月額が「195,000円~210,000円」の社会人の場合、自己負担は「18,300円」になります。
雇用保険
雇用保険は、万が一失業してしまった際に支給される失業手当に使われる保険料です。
雇用保険も健康保険と同様に、企業と従業員が折半して保険料を負担します。
雇用保険料の見直しが行われ、2023年4月からは一般事業の従業員の負担が、月額報酬の「0.5%」から「0.6%」になっています。
所得税
所得税は、所得のある全ての人が支払う税金です。
毎月の給与から概算されて、「源泉徴収」という形で控除されます。
概算で徴収される性質上、払いすぎた所得税は年末調整や確定申告をすることで、後から還付を受けられる場合があります。
所得税は、所得や扶養人数に応じて徴収される金額が変わるのが特徴です。
住民税
住民税は、市区町村に支払う税金です。
会社員は、所得税と同じく毎月の給与から控除されます。
住民税には、「区市町村民税」の「6%」と「道府県民税・都民税」の「4%」を合わせた「10%」と、指定された均等割を足して計算されます。
額面と手取り額の一覧表
毎月の給与から差し引かれる控除額は、給与の金額によって変わります。
給与の額面に「0.75〜0.85」を掛けたものが、おおよそ手取り額として計算可能です。
- 額面の月給が「200,000円」の場合、上記の計算を用いると「150,000円〜170,000円」
- 額面の月給が「240,000円」の場合、上記の計算を用いると「180,000円〜204,000円」
- 額面の月給が「260,000円」の場合、上記の計算を用いると「195,000円〜221,000円」
インフレに合わせて初任給は上がる?
インフレによる物価高騰を受けて、初任給を上げている企業が増えています。
労務行政研究所の2023年の調査によると、初任給を「全学歴引き上げ」した企業は「70.7%」となっています。
初任給を引き上げる要因になったのは、以下の理由からです。
- 物価の上昇
- 労働人口の減少
- 働き方の多様化
それぞれの理由について、解説します。
物価の上昇
物価の上昇をはじめとする経済情勢の変化は、初任給にも大きく影響しています。
2014年には、企業業績の回復やデフレ脱却に向けた賃上げの政労使合意などを背景に、賃上げが行われました。
今後も物価の上昇が続く場合、生活費の増加も予測されます。
生活費が増加すれば、従業員が生活できなくなる恐れがあるので、初任給も引き上げる必要があります。
労働人口の減少
労働人口の減少で、優秀な人材を集めるために初任給を引き上げる企業が増えています。
初任給を上げることで、優秀な人材を採用しやすくするためです。
日本は少子高齢化が進み、企業を支える労働人口も減少の一途をたどっています。
そのため、従来の初任給では人材の採用ができないと判断する企業が増加しています。
働き方の多様化
従来の日本で当たり前だと思われていた終身雇用の崩壊など、働き方の多様化は年々進んでいます。
労働人口の減少に加えて、企業で働く若者が減っていることで、企業では初任給が見直されています。
終身雇用が一般的だったころは、年功序列を基本としていたので初任給は低く抑えられていましたが、現在では年功よりも成果が重視されるようになり、新卒の従業員でも成果によって評価する企業が増えています。
終身雇用の崩壊
終身雇用を前提としていた時代は、1度入社すると定年を迎えるまで同じ企業に勤めることが前提でした。
しかし、現在の日本では、働き方の多様化や成果主義を採用する企業が増えたことで、転職する人も増えており、終身雇用が崩壊しつつあります。
2019年には、トヨタ自動車の豊田章男社長が「終身雇用を守っていくのは難しい局面に入ってきた」と発言したことが大きな話題となりました。
これから社会人になる学生には、成果報酬型になることで早期に給与を上げるチャンスが増えるでしょう。
初任給をチェックしよう!
就職した人が最初に貰える初任給は、基本給となる額面がそのまま貰えるわけではありません。
社会保険料や税金があらかじめ引かれるということを覚えておきましょう。
また、インフレや企業の評価制度によって初任給は年々高くなるように見直されはじめています。
初任給の金額だけでなく、人事評価や労働環境をチェックして、働きやすい企業を見つけることをおすすめします。